(19日、愛知県高校優勝野球大会1回戦 高蔵寺7-3安城)
足を上げ、そこから一気に踏み込んで腕をしならせる。伸びのある速球が、次々と捕手のミットに突き刺さった。
高蔵寺の先発、最速150キロ左腕・芹沢大地(3年)が、直球とスライダーを軸に相手打線を圧倒した。7イニングを投げて12奪三振、1失点。夏の前哨戦で「プロ注目」の実力を見せつけた。
高蔵寺は、野球では無名の公立校だ。夏の全国選手権の最高成績は愛知大会8強で、NPB(日本プロ野球)選手を輩出したこともない。校庭の一角にあるグラウンドの照明はまばらで、日が落ちると一気に暗くなる。芹沢は、そんな環境で力をつけてきた。
小学2年生で野球を始め、中学時代の最速は130キロ前後。球は速い方だったが、「高校では、野球メインの生活を送るつもりはなかった」と、自宅から自転車で通える高蔵寺に進学した。「当初は勉強を頑張ろうという気持ちでした。プロを意識したこともなかったです」
入学時は身長170センチ台前半、体重60キロ前後と、体格も野球選手としては細身。河原仁監督(50)は「ひょうひょうとしていてマイペース。『140キロ投げたらプロ注目の投手になれるぞ』と言ったら『えっ、そうなんですか?』ってびっくりするような子だった」と振り返る。
そんな芹沢の球速は、体の成長とともにぐんぐん伸びていった。2年の春に140キロを突破し、夏には147キロをマーク。直後の愛知大会では直球を武器に、計11イニングで14三振を奪った。そのころには、プロのスカウトも学校のグラウンドに詰めかけるようになった。
周囲の変化で、「プロという道もある」と意識し始めた。昨冬は球威だけでなくコントロールも向上させるため、食事やウェートトレーニングを通して体重アップに取り組んだ。軸足の股関節に体重を乗せ、肩から腕をしならせる意識でフォームを見直した。
この春、体は182センチ、72キロまで大きくなり、3月中旬の練習試合でついに150キロをたたき出した。
左投手の150キロは、同時期に行われていた選抜大会でも計測されなかった数字だ。芹沢は「入学当初、今の自分はまったく想像できなかった」。中学からバッテリーを組む捕手の大坂幸平(3年)も「ここまで成長するなんて、信じられない」と舌を巻く。
注目を浴びても、マイペースな性格と控えめな口調は変わらない。「世代ナンバーワンとかって言われることもあるんですけど、自分が本当にそうなのかなという感じ。ただ速いボールを投げるのが楽しくて」。河原監督は「もともとは、周りにあまり興味を持たない性格。自分がすごいピッチャーだということも、これだけ騒がれてやっと自覚が出てきた」と笑う。
4月にはU18(18歳以下)日本代表の候補選手に選ばれ、強化合宿に参加。「大舞台を経験したピッチャーと比べると、自分はマウンドでの立ち振る舞いや、ボール以外の部分がまだまだだった」。ただ、「直球では張り合える」と自信も深めた。
プロ、そしてメジャー……周囲の期待も高まるが、本人は「まだもうちょっと考えて、自分に合ったところを見つけられたら」と話す。まずは2カ月後に控える最後の夏までに、投手としての能力に磨きをかける。
夏への思いを問われると、いつもの控えめな口調に責任感がにじんだ。「長いイニングを任せてもらえる投手になりたい。自分のピッチングで甲子園に行き、甲子園で勝てるチームを作りたい」